GoogleのAIモードで進む広告・コマース機能の刷新
Googleは検索体験の中核を「リンクの一覧表示」から「AIとの対話による情報探索」へと移行させつつあります。その新しい検索体験を担うのがAIモード(AI Mode)であり、ここに広告とコマースの新機能が次々と組み込まれている点が、2025年以降のマーケティング領域における最大の変化と言えます。Google検索本体に生成AIが組み込まれることで、ユーザーは情報収集から比較検討、購入までを一連の対話の中で完結させやすくなり、その流れに合わせて広告フォーマットも刷新が進んでいます。
本記事で扱うのは、AIモードに投入されつつある主要な新広告・コマース機能の全体像です。具体的には、AIモード内で割引や特典を提示するDirect Offers、AIエージェント時代の購買体験を支えるオープン標準Universal Commerce Protocol(UCP)、AIモードへの対応が発表されたShopping Ads、そして広告内チャットでリード獲得を行うBusiness Agent for Leadsの4つです。これらはGoogle Marketing Liveなどの公式発表でも繰り返し言及されており、AI検索時代の広告基盤として位置づけられています(出典:Google Marketing Live 2026)。

後続の章で個別に詳述しますが、まずは全体像を一覧で押さえておきましょう。
- Direct Offers:AIモード内でユーザーの購買意欲を判定し、割引コードや送料無料などの限定オファーを提示する新広告フォーマット。
- Universal Commerce Protocol(UCP):商品情報・在庫・決済をAIエージェント経由で扱えるようにするオープン標準。AIモードのチェックアウト機能の基盤となる。
- Shopping Ads(AIモード対応):AIモードの回答内に商品広告を表示する拡張。Geminiを活用した広告クリエイティブの自動生成にも対応。
- Business Agent for Leads:広告内で起動するAIチャットが、見込み顧客とのやり取りを通じてリード獲得まで完結させる仕組み。現時点では教育・不動産・自動車分野でテスト中(米国)。
これらに共通するのは、「検索結果ページからWebサイトへ遷移させる」従来モデルから、「AIとの対話の中で価値提供と購買行動を完結させる」モデルへの転換です。広告主にとっては、出稿面の追加というよりも、商品データやオファー設計、AI上での自社ブランドの可視性管理といった、より上流の準備が求められるフェーズに入ったと言えます。AIモード上で自社がどのように扱われているかを継続的に把握する手段については、関連記事の日本語対応や新機能を含むAIモードの最新アップデート解説もあわせて参照してください。次章以降では、各機能の仕組みと実務上の論点を順に掘り下げていきます。
「Direct Offers」とは何か:AIモード内で割引・特典を提示する新広告
Direct Offers(ダイレクトオファー)は、GoogleがAIモード上で展開する新しい広告フォーマットです。従来のテキスト広告のように「リンクをクリックさせる」ことを目的とするのではなく、AIとの対話の流れのなかでユーザーが購入意欲を示したと判断された瞬間に、限定オファーや割引コード、送料無料といった価値訴求型の特典を提示する仕組みになっています。AIモード内での会話が購買の入口になりつつあるなか、購入の最後の一押しをAIが担う最初の本格的な事例といえます。
Direct Offersの基本的な仕組み
広告主側のオペレーションはシンプルで、Google Adsのキャンペーン管理画面から、適用したい割引率・特典内容・対象商品・有効期間などを登録します。あとはGoogle側のAIが、AIモード上での検索やチャット文脈を解析し、ユーザーが比較検討フェーズや購入直前フェーズに到達したと判断したタイミングでオファーを差し込みます。(出典:AI 検索時代における次世代の広告戦略)
- 小売側はGoogle Adsで割引・特典・プロモーション内容を登録
- GoogleのAIがユーザーのインテントと会話文脈を判定
- 「最大20%割引」「送料無料」など、価値訴求ベースのオファーを表示
- 提示されたオファーから、そのまま購入フローへ進める
ポイントは、表示がキーワードマッチではなくインテント判定で起動する点です。「赤いランニングシューズが欲しい」「来週のマラソン用に軽量モデルを探している」といった自然文の対話からAIが購買意欲を推定し、もっとも刺さるタイミングで限定特典を差し込むため、配信精度の高さが期待されています。

具体的にどんな形で表示されるのか
現時点で報告されている事例では、AIモードの回答のなかに商品カードと一体化する形で「最大20%OFF」「初回限定クーポン」「期間限定の送料無料」といった訴求が表示されます。AIが「このユーザーは比較検討の終盤にいる」と推定した場合に限って差し込まれるため、出現頻度自体は決して高くありませんが、表示された場面では強い意思決定要因として機能します。Googleは現在この機能をパイロット段階として米国の一部広告主と展開しており、今後対象カテゴリの拡張が予定されています。
「クリック誘導」から「購入完結支援」へ
Direct Offersが象徴的なのは、広告の役割が変質している点です。従来の検索広告は、ユーザーをランディングページへ送客し、そこから先のコンバージョン設計は広告主側に委ねられていました。一方Direct Offersは、AIモード内のセッションのなかで意思決定そのものを動かすことを狙います。これは検索広告のロングテール最適化や検索クエリの意図分類とは別レイヤーの話で、AIによる文脈判定とプロモーションデータの組み合わせが広告効果を決める時代に入りつつあることを示しています。
このフォーマットを最大限活用するには、Google Merchant Center上の商品データとプロモーション情報の精度が前提になります。割引額・対象SKU・有効期間といったオファー設計を構造化されたデータとして用意できているかどうかが、AIモード内で表示機会を得られるかを大きく左右します。
Universal Commerce Protocol(UCP)の役割とAIエージェント時代のコマース基盤
Direct Offersと並んでGoogleが打ち出したもう一つの中核要素が、Universal Commerce Protocol(UCP)です。UCPは、AIエージェントがユーザーに代わって商品を探索・比較・購入する一連の流れを支えるための、オープンなコマース標準として位置づけられています。AIモードのように対話的なインターフェースで購買が完結する世界では、検索結果に表示されるリンク先のWebサイトではなく、エージェント自身が小売・決済システムと直接やり取りする必要があり、そのための共通言語がUCPだと整理すると分かりやすいでしょう。
UCPが横断する3つのレイヤー
UCPがカバーする領域は、大きく分けて「商品カタログ」「在庫・価格」「決済(チェックアウト)」の3層に整理できます。これまではそれぞれが小売事業者ごとに独自仕様で実装されており、AIが横断的に扱うには大きな障壁がありました。UCPはこの部分を共通プロトコル化し、AIエージェントが多数のマーチャントを同じ作法で扱えるようにする狙いがあります。
- 商品カタログ層:商品名、属性、画像、バリエーションなど、AIが比較検討に使う情報を提供する
- 在庫・価格層:リアルタイムの在庫状況、価格、適用可能なプロモーションやオファーを伝達する
- 決済・注文層:チェックアウト処理、配送先・支払い手段の受け渡し、注文確定までをエージェント経由で完結させる
オープン標準であることの意味
UCPは特定のプラットフォームに閉じた仕様ではなく、オープン標準として設計されている点も重要です。GoogleはAgent2Agentなど他のエージェント連携プロトコルとの互換性も意識しており、特定企業のエージェントだけが優遇される設計を避ける方針を示しています。これにより、小売事業者は一度UCPに対応すれば、GoogleのAIモードだけでなく他のAIエージェントからの購買リクエストにも応じられる可能性があり、実装コストの分散が期待できます。
関連する基盤として、AIエージェントがWebWebサイト側の機能を呼び出すためのインターフェース仕様であるWebMCPの考え方も、UCPと並行して議論が進んでいます。UCPがコマース領域の共通語彙だとすれば、WebMCP系の仕様はWebサイト機能をエージェントに開放するための呼び出し規約であり、両者は補完関係にあると捉えられます。
Merchant Centerとの接続と実装の現実
実務的に見ると、UCPに必要な商品データの多くは、すでにGoogle Merchant Centerに登録されている情報と重なります。価格・在庫・プロモーション・配送条件などのフィードを高い精度で維持しておくことが、結果としてAIモード上での露出やDirect Offersの配信品質に直結する構図です。AIエージェントは構造化されたデータを優先的に取り扱うため、構造化データの整備やフィードの正確性は、これまで以上にコマース戦略上の競争要因になります。
UCPはまだ立ち上げ期にあり、対応マーチャントの範囲や決済フローの実装は段階的に拡大している状況です。ただし、ここで重要なのは、UCPが単なる新しい広告タグではなく、「AIエージェント時代の商取引基盤」そのものとして設計されている点です。Direct OffersやShopping AdsのAIモード対応といった個別機能は、いずれもこのUCPという土台の上で機能しているとイメージすると、Googleが描く全体像が見えやすくなります。
Google Marketing Liveで発表された3つの新機能
Google Marketing Live 2026 では、AIモードに連動する広告・コマース機能の拡張として、大きく3つの新機能が発表されました。具体的には、Shopping Ads の AIモード対応、Business Agent for Leads、そして既存の Direct Offers のパイロット拡張です。いずれも、これまで紹介してきた Direct Offers や Universal Commerce Protocol(UCP) の流れを前提に、AI 体験内での商品発見・比較・購入・問い合わせを一気通貫で支える方向に揃えられています。
① Shopping Ads の AIモード対応
1つ目は、Shopping Ads が AIモードの回答内に表示されるようになる点です。ユーザーが「予算3万円のランニングシューズを探して」「在宅勤務向けの椅子を比較したい」といった会話型のクエリを投げると、AIモードの回答の中に商品カードやプロモーションが差し込まれます。商品データの基盤は従来通り Merchant Center であり、Merchant Center に蓄積された商品・在庫・価格情報がそのまま AIモード内のショッピング体験で活用されます。
加えて、Gemini を活用した広告クリエイティブ生成も進んでおり、商品画像や訴求文を AI が文脈に合わせて組み替えて表示する形が想定されています。広告主にとっては「キーワード単位の入札と静的クリエイティブ」から、「商品データと AI による動的最適化」へと運用の重心が移っていく流れです。
② Business Agent for Leads:広告内チャットでリードを獲得
2つ目は、リード獲得を目的としたサービス業向けの新機能 Business Agent for Leads です。広告枠の中に AIチャットを埋め込み、ユーザーが見積依頼や日程相談、サービス内容の質問などを行えるようにする仕組みで、従来のように一度ランディングページへ遷移する必要がありません。背景にあるのは、Merchant Center で先行している Business Agent と同じく、企業の情報やナレッジを AIエージェントに学習させ、自社の代わりに一次対応させるという考え方です。
EC のような物販だけでなく、リフォーム、士業、教育、人材といった「相談から始まる」業種にとっては、広告そのものが見込み顧客との対話チャネルになります。広告 KPI も、クリック数やフォーム送信数だけでなく、有効な会話数・有資格リード数といった指標が中心に据えられていく可能性があります。
③ Direct Offers パイロットの拡張
3つ目は、すでに紹介した Direct Offers のパイロット拡張です。対象となる小売事業者や提示できるオファー種別(割引コード・送料無料・会員限定特典など)が増え、AIモードの回答内で「今このユーザーに最も効きそうなオファー」を提示する範囲が広がります。UCP の整備が進むほど、提示されたオファーから決済までを AIモード内で完結させやすくなり、Direct Offers と UCP は事実上ワンセットで強化されていく構図です。
3つの新機能を比較する
| 機能 | 概要 | 主な狙い | 対象シーン |
|---|---|---|---|
| Shopping Ads(AIモード対応) | AIモードの回答内に商品広告・プロモーションを表示。Gemini がクリエイティブ生成を支援 | 会話型検索からの商品発見と購入促進 | EC・物販、比較検討フェーズの購買 |
| Business Agent for Leads | 広告内に AIチャットを埋め込み、見積・問い合わせ・予約などを直接対応 | Webサイト遷移を介さないリード獲得と一次対応の自動化 | サービス業、相談型ビジネス、BtoB |
| Direct Offers(拡張) | 購買意欲の高いユーザーに割引・特典を AIモード内で提示。UCP と連動して決済まで接続 | 購入直前の背中押しとコンバージョン最大化 | セール期、ロイヤル顧客向けオファー、在庫消化 |
3つを並べると、Google は AIモードを軸に 「商品発見(Shopping Ads)/問い合わせ(Business Agent for Leads)/購入完結(Direct Offers+UCP)」という3方向で広告体験を強化していることが見えてきます。広告主側の準備としては、Merchant Center の商品データ、サービスや FAQ などのナレッジ、オファーやプロモーション設計の3つを、AI が扱いやすい形で整えていくことが共通の土台になります。
なぜAIモード内コマースが注目されるのか
AIモード内コマースが注目される最大の理由は、商品探索から比較・検討、最終的な購入までを単一のAI対話インターフェース内で完結できる点にあります。これまでの検索は「クエリを入力 → 検索結果のリンクをクリック → 各社Webサイトに遷移 → カート投入 → 決済」という多段プロセスでしたが、AIモードとUCPの組み合わせは、その大半をGoogleのインターフェース内に取り込もうとしています。
「Webサイトを経由しない購入」がもたらす構造変化
2026年2月のアップデートでは、AIモード内でUniversal Commerce Protocol(UCP)を活用したチェックアウト機能に関して、Etsy・Wayfair向けに正式にロールアウト(展開)が開始されたことが報じられ、同時にAIモード内のショッピング広告テストも拡大していることが伝えられています。これは、ユーザーがGeminiアプリやAIモードの会話の流れの中で気になった商品をそのまま購入できる体験が、実証段階から運用段階に近づいていることを意味します。
Webサイトを経由しない購入モデルが定着すると、いくつかの常識が一気に揺らぎます。第一に、「Webサイト訪問数=ビジネス機会」という従来のKPIが機能しにくくなります。商品の比較や決済がGoogle側で完結する場合、自社Webサイトへの流入は減っても売上は立つ、あるいは逆に売上機会だけがAI側に吸い上げられる、という事態が起こり得ます。
第二に、クリックを起点としたアトリビューションの前提が崩れます。AIモード内で完了した取引は、従来の「最後にクリックされた広告/ページ」という考え方では捉えにくく、Merchant Centerデータやオファー、レビュー、価格情報といった構成要素の貢献を別の物差しで評価する必要が出てきます。
広告とSEOの役割再定義
広告側では、Direct Offersやショッピング広告のAIモード対応により、「クリックを買う」のではなく「購入意欲が高まった瞬間の意思決定を後押しする」方向へ役割がシフトしていきます。割引コードや送料無料、ロイヤリティ特典といった具体的な価値訴求が、AIの推論の中で比較対象として扱われるようになります。
SEO側も無関係ではありません。AIモードは引き続きウェブ上の情報を参照し、レビュー・解説・比較記事を回答や推奨の根拠として引用します。ECWebサイト運営においては、ECWebサイトのSEOで考慮すべき重要項目を踏まえつつ、構造化データや商品データの整備、レビューの蓄積を進めることが、AIモード上での「言及されるブランド」になるための前提条件になります。UCPの拡張動向についてはUCPの最新アップデートを踏まえたAI購買時代のSEO・EC戦略の解説もあわせて参照してください。
つまりAIモード内コマースは、単なる新しい売り場の登場ではなく、「発見・比較・決済のレイヤーがGoogle側に集約される」という構造転換そのものです。広告主とSEO担当者は、流入数だけでなく、AIモード上で自社の商品や情報がどの程度参照・推奨されているかという別の可視性指標を、これから並行して追う必要があります。
広告主・マーケターが押さえておきたいポイント
Direct Offers、UCP、Shopping AdsのAIモード対応、Business Agent for Leads——一連の発表は、広告運用とECの実務に同時並行で影響します。重要なのは、個別機能を追いかけることではなく、AIモード時代に共通して効いてくる「土台」を先に整えることです。ここでは、広告主とマーケターが今すぐ着手しておきたい実務上のポイントを整理します。
1. Merchant Centerの商品データ品質を最優先で整える
AIがオファーや商品を提示する際に参照するのは、Merchant Centerに登録された商品フィードとプロモーション情報です。GTIN・ブランド・カテゴリ・在庫・価格・画像といった基本属性が欠落していると、AIモード内で正しく取り上げられない可能性が高まります。Googleは商品データ品質をMerchant Centerの主要評価軸として明示しており、まずはここを底上げすることが最も投資対効果の高い打ち手になります(出典:Google Merchant Center ヘルプ)。
2. 「価値訴求型オファー」を設計し直す
Direct Offersは、割引コード・送料無料・特典など、ユーザーの購買判断を後押しする価値訴求がフォーマットの中心です。単発の値引きを場当たり的に打つのではなく、シーズン・在庫状況・ターゲットセグメントに応じて「どのタイミングでどのオファーをAIに見せるか」を設計する視点が必要になります。プロモーション情報もMerchant Center経由で構造化して登録しておくことで、AIモード内での露出機会が広がります。
3. AIモード上での自社ブランド可視性をモニタリングする
AIモードでは、従来の検索順位やクリック数だけでは自社の露出を把握しきれません。回答内で自社ブランドが言及されているか、競合と比較してどの程度引用されているか、どのページがソースとして使われているか——こうした指標を継続的に追う体制が必要です。AIモードの新しいUXとSEOへの構造的インパクトを踏まえ、トラッキングの対象指標を再設計しておきましょう。
4. UCPを見据えた長期のコマース基盤戦略
UCPはまだテスト段階ですが、普及すれば「Webサイトを経由しない購入」が現実的な販路になります。UCPの最新アップデートとAI購買時代のEC戦略で整理されているように、商品フィード・在庫・決済の各システムがAIエージェントから扱える状態になっているかを点検し、Agentic Commerceに対応できる基盤を中期計画に組み込むことが求められます。
今すぐ着手したいチェックリスト
- Merchant Centerの商品フィード品質(必須属性の充足率・診断レポートのエラー)を棚卸しする
- プロモーション・クーポン情報を構造化データおよびMerchant Centerで一元管理する
- 主要カテゴリ・主要商品の「購買インテント型クエリ」をリスト化し、AIモードでの表示状況を定点観測する
- 自社ブランドの言及・引用元URL・競合との出現比率をモニタリングするツールを導入する
- Business Agent for Leadsを見据え、商品Q&A・FAQ・在庫情報など「AIが答えやすい」情報をWebサイト側に整備する
- UCP/Agentic Checkoutに備え、決済・在庫APIの外部連携可否を技術側と確認しておく
これらは一度整えれば、Direct Offersでも、Shopping AdsのAIモード対応でも、Business Agent for Leadsでも共通して効いてくる土台です。新機能が増えるたびに対応コストが跳ね上がる事態を避けるためにも、データ品質と可視性モニタリングの2点は早期に着手しておきたいところです。
まとめ:AI体験と広告・コマースの融合フェーズへ
ここまで見てきたように、AIモードに投入される一連の新機能は、単なる広告フォーマットの追加ではなく、検索・広告・コマースの境界そのものを溶かす動きとして捉える必要があります。Direct OffersはAI対話の流れの中で割引や特典を差し込み、UCPはAIエージェントが商品情報から決済までを横断的に扱える基盤を提供し、Shopping AdsのAIモード対応やBusiness Agent for Leadsは広告の中で会話と取引を完結させようとしています。これらは個別の施策ではなく、「AI体験そのものを売り場に変える」という一貫した方向性の表れです。
従来の検索広告が担ってきた役割は、ユーザーをランディングページへ誘導し、その先のWebサイトでコンバージョンを取りに行く「クリック促進」でした。しかしAIモード上では、比較・検討・意思決定の多くがAIとの対話の中で進み、ユーザーはWebサイトに辿り着く前に意思を固めるケースが増えていきます。その結果、広告の役割は「クリックを獲得すること」から、AI体験の中で購入完結を支援することへとシフトしていきます。Direct Offersが対話の最後の一押しを担い、UCPがチェックアウトまでをつなぐという構造は、その象徴的な実装と言えるでしょう。
中長期で見れば、この変化はSEOや広告運用の前提を組み替えるものになります。Webサイト流入を最大化するという発想だけでは、AIモード内で完結する購買行動を捕捉しきれません。Merchant Centerの商品データやオファー情報がAIに「使われる素材」となり、自社ブランドや商品がAIモードの回答内でどれだけ言及・引用されるかが、新しい意味での可視性指標になっていきます。UCPによるチェックアウト拡張の動きや、AIモード自体の機能拡張を継続的に追いながら、自社の露出をモニタリングしていく姿勢が欠かせません。
AIモードはまだ進化の途上にあり、Direct OffersもUCPも限定的なパイロットの段階です。しかし、Googleがこれらを「AI体験と広告・コマースを一体化させる土台」として位置づけていることは明らかで、今後数年で広告主・EC事業者・SEO担当者の業務範囲は確実に再編されていきます。重要なのは、個別機能の細部に振り回されることではなく、「AIが購買行動の中心に座る」という大きな流れを前提に、商品データ・オファー設計・ブランド可視性のモニタリング体制を整えておくことです。AI体験と広告・コマースが融合するフェーズは、すでに始まっています。
よくある質問(FAQ)
- Q. GoogleのAIモードとは何ですか?
- A. AIモードは、Google検索内でAIとの対話を通じて情報収集から比較、購入までをシームレスに行える新しい検索体験です。従来の「リンクをクリックして遷移する」検索とは異なり、AIがユーザーの意図を理解し、回答や商品提案、オファーの提示までを一貫して行います。Geminiアプリとも連携し、コマース機能の中核として位置づけられています。
- Q. Direct OffersはGoogle Adsの通常の広告と何が違いますか?
- A. Direct Offersは、AIモード内でユーザーの購買意欲が高まったタイミングを判定し、割引コードや送料無料などの具体的な特典を提示する広告フォーマットです。通常の検索広告がクリック誘導を目的とするのに対し、Direct Offersは購入の意思決定そのものを後押しする点が大きな違いです。広告主はGoogle Adsのキャンペーン設定内でオファーを登録して利用します。
- Q. Universal Commerce Protocol(UCP)は誰のための仕組みですか?
- A. UCPは、小売業者・決済事業者・AIエージェント開発者など、AI経由のコマースに関わるすべてのプレイヤーのためのオープン標準です。商品情報や在庫、価格、決済処理を横断的に扱えるようにすることで、AIエージェントが多様な小売・決済システムとスムーズに連携できる基盤を提供します。Agent2Agentなど他の業界標準とも互換性を持つよう設計されています。
- Q. AIモードでの購入が広がると、自社Webサイトへの流入は減りますか?
- A. AIモード内でチェックアウトまで完結する体験が普及すると、従来のようにWebサイトへ遷移してから購入に至る流れは確実に減少していくと考えられます。一方で、商品データやブランド情報がAIモード内でどう扱われるかが新しい競争領域となるため、Webサイト流入数だけでなくAIモード上での露出を含めた指標で効果を捉える必要があります。SEOの常識自体が見直されるフェーズに入っているといえます。
- Q. AIモードのDirect Offersや新機能は日本でも使えますか?
- A. 現時点でDirect OffersやUCPを活用したチェックアウト機能は、主に米国を中心としたパイロットやテストとして展開されており、日本での一般提供時期は明示されていません。ただしGoogle Marketing Liveで発表された機能群は段階的に拡大される傾向があるため、日本の広告主も商品データ品質やプロモーション設計を早めに整えておくことが推奨されます。最新の提供状況はGoogle公式の発表で確認するのが確実です。
- Q. AIモード時代に広告主がまず取り組むべきことは何ですか?
- A. 最優先で取り組むべきはMerchant Centerの商品データ品質の改善と、プロモーション・オファー情報の整備です。AIがオファーを選定する際の判断材料となるため、価格・在庫・特典の鮮度や正確さが広告効果に直結します。あわせて、AIモード上で自社ブランドや商品がどのように露出・言及されているかをモニタリングする体制を整えることも重要になります。

